6.3 消費するヒトの発見
https://gyazo.com/68191fb0ef6228bb11f91bad178bccdb
最初に進化心理学をマーケティングと消費者研究に導入した学者の一人 著書においては、進化心理学の視点からヒトの消費行動の原因と特徴について詳細に考察し、現代マーケティングと行動経済学領域に新たな研究テーマを提示している 私の進化への"悟り"
後に新科学者になろうと決意するきっかけとなるような、進化理論の持つ単純明快な説得力に気づく瞬間のこと
私の"悟り"は、コーネル大学の博士課程の1年目の1990年の秋、デニス・レーガンの社会心理学特論の講義を受けている時 配偶者間の殺人、低い社会的地位にある男性間での殺人へつながる争いなど、様々な犯罪の普遍的なパターンを進化的な観点から説明していた
この研究の目的は、ヒトが「私は、競合する選択肢の情報を全て得た。だから、新たな情報を得ようとするのはやめて、Aという選択肢を選ぼう」と言う時の、鍵となる認知プロセスを明らかにすることだった
この博士論文でわかった適応的探索停止戦略から、ヒトは「経済人(Homo economicus)」などという架空の生き物と違って、所与の意思決定ルールを厳密に適用するようなやり方を取らないことが示されていた むしろヒトは、様々な状況要因(有力な選択肢を特定するプロセスがどれだけ進んでいるかや、時間のプレッシャーなど)に応じて、停止戦略を変化させることがわかった
このように、私の初期の行動意思決定理論についての研究(Saad & Russo, 1996)は、明確に進化心理学の枠組みに基づいてはいなかったが、進化が形成する行動の可塑性を認識していた コンコルディア大学の助教になったとき、私は進化消費行動の分野を立ち上げた
私の研究業績と未来計画
私の研究の多くは、進化的な枠組みに基づいて共通の理念でつながっている
研究手法も様々
調査
実験室実験(紙と鉛筆だけの実験から装置を使ったプロセスの記録まで)
二次的データの利用など
最近の研究
私たちが考えたこと
また、男性のテストステロンレベルは社会的/競争的な場面での勝利(敗北)に依存して増加(減少)する
この二つから、男性に高いステータスの商品を与えると、テストステロンレベルは増加すると予測される
具体的には、ポルシェを運転すると男性のテストステロンレベルが増加することを私たちは実証した
興味深いことに、テストステロンレベルの増加は、繁華街で運転しても、さびれた道路で運転しても、同じように生じた
分析した48カ国での平均の比率は0.72であり、これは、0.68~0.72という男性のほとんど普遍的とも言える好みに一致するものだった
つまり、世界中の様々な文化の女性は、男性に受けのよい重要な形態的特徴をよく知っているということで、世界最古とされる職業における普遍的現実を、この研究は明らかにした
消費を包括的、網羅的に定義した上で、生物学的なヒトの本性を生み出した進化のちからを無視しては、ヒトの消費本能を十分に理解することはできないと示そうと試みた 数え切れないほどの消費の側面をすべて書き出した後、それぞれをダーウィン的に解釈するという戦略をとった
私の研究の未来計画は、進化的な視点から興味深い科学的問題に根気強く取り組み続けること
デヴィッド・ウィルソンがビンガムトン大学で始めたような、学部をまたいだ進化的研究プログラムを、自分の大学でも立ち上げたい モントリオールの4つの大学の進化学者が一堂に会し意見交換できるような、大学間の進化研究グループを作りたい
自分の大学のビジネススクールに、ビジネス生物学センターを設立したい
研究の中で得た経験と教訓
「自分の考えを変えるか、変える必要がないことを証明するかの選択に迫られたら、ほとんど全員が、考えを変える必要がないことを必死で証明しようとする」
ここ15年のほとんどの間、多くのマーケティングと消費行動の研究者は、私の研究に並々ならぬ反感を抱いてきた
1. 無価値で馬鹿げている
2. おもしろいが突拍子もない見方だ
3. 正しいが重要ではない
4. 昔から私もそう思っていた
第1段階から第3段階まで移行したマーケティングの研究者は増えてきたが、第4段階に至った人はまだほとんどいないのが現実
進化心理学への異議と今後のフロンティア
私の一般書(Saad, 2011a)の第1章では、進化心理学者を悩ませ続けるであろう9つの異議を列挙し、反証を述べた それらの懸念のうちいくつかは、思想的・観念的なもの
観念的な攻撃に加え、進化心理学を中傷する人は、認識論的なデマを主張している シャロン・ベグリーが進化心理学をこき下ろした"Newsweek"の記事に対して、私がPsychology Todayで説明したように、進化心理学への攻撃は、決して倒せない不死身の獣のようなもの
進化心理学は何度も応えてきたが、新たな無知の世代の登場とともに攻撃は再開される
将来の進化心理学者が立ち向かうべき課題の一つは、永遠とも思えるこれらの無学な攻撃が二度と頭をもたげることがないように、決定的な解決策を見つけることだろう
進化行動学者は、いくつかの重要な進化学の領域で、見事な究極的説明を提供してきた
最も成功したのはおそらく、ヒトにおける普遍的な性差の説明 その反面、進化心理学者は、ヒトにとって新しく、重要な他の領域に進化的視点を適用することにやや臆病だった
究極的にいえば、生物学的主体が関わるあらゆる事象は、進化心理学の射程にある
ヒトが関わるあらゆる事象は、みなが共有している普遍的な生物学的遺産の内側に存在している
将来の進化心理学が、科学的探求の無限とも言える新領域に進化的思考をますます注ぎ込んでいくことを望む
キャリア形成への提言
科学者が直面する二つの相反するキャリア形成の選択肢の緊張関係
狭く定義づけられた分野の中で研究するか、それとも学術領域の制約など関係なく、興味深い課題に取り組んでいくか
科学者としての名声を得るための戦略としては、前者のほうが一般的ではあるが、後者はもっと刺激的だと私は主張した
同じ学術分野を何度も検討し続けるには人生は短すぎる
やがて来る敵の攻撃に立ち向かえるだけの図太さを身に着けておこう
自らの倫理と規範に妥協しない